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第一話『彼の名前は、壮志。』

ある朝の営業前、クインテットスタッフのナベくんが鼻息荒く僕に近寄ってきて言いました
「昨日、壮志さんの夢みたんすよ」
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「へえー、どんな夢だったのよ?」
顔に笑みを浮かべながら嬉しそうに、ナベくんが語り出しました。
───ここからがナベくんの夢の内容です
舞台は都会のアスファルトの上、スポットライトに照らされる二人の男女の影。
どうやら、ドラマの撮影現場らしい。
もう撮影は始まっているようだ。
演技中の主演女優。何かのアクシデントに見舞われたのか、アスファルトの縁石の上に腰かけて困った様子。ヒールを履いた綺麗な女性だ。
そこへスーツに身を包んだ男性が女性の前を通り過ぎる。そして、女性のアクシデントに気付き、後戻りして優しく語りかける。
ここからではセリフがよく聞き取れない。
しかし、女性の困った顔が晴れやかになった。
通りすがりの男性が女性のアクシデントを助ける、よくある男女の出会いのシーンらしい。
アクシデントが解決したのも束の間、さっそうとその場を去るスーツの男性。
身長は180cm近くあるだろうか。
立ち去ろうとする男性の背中に向かって、女性は立ち上がりこう叫んだ。
「あ、あの!せめて、せめて、お名前だけでも!」
すると、男性は両手をスラックスのポケットに突っ込んだまま、顔だけ女性の方に振り向き、フッと微笑みながらこう言った。





「…そうし。
もてぎ、そうし」
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※写真はイメージです
それだけ言うと、茂木壮志は夜の街に消えて行った───
話を終えてなべくんが一言。
「夢の中だと、壮志さん、身長も大きいし、めっちゃかっこよかったんですよねー!」
「だけど、実物はやっぱ違いますねー」
おい、ワタナベよ。これは、先輩に対しての挑戦と受け取っていいのかな?え?ワタナベよ。
と内心思っていましたが、ここは先輩なので茂木は。大人な先輩なので茂木は。ぐっと堪えました。
それにしても、僕の相手役だった女優さんが誰だったか思い出せないなんて。なんて使えない男なんだ、ワタナベよ。
その美女が誰だかわからなければ、今夜、僕の夢に登場してもらえないじゃないか!イマジネーションが湧いてこないじゃないか!
せめて夢の中でいいから、先輩茂木に良い思いをさせてくれよ、ワタナベよ。
主演男優、身長180cmでスーツを着こなす茂木壮志を想像して今夜は眠りにつきたいと思います。
来たれ、ドラマの続き。第二話はキスシーン希望です。